Lesson#228;結局ブラックな物が好きなんだよね、音楽もジョークも。

その胸も尻もないガリガリにやせたくそったれな女は、バスルームから裸のまま出てきやがった。全身びしょ濡れで廊下をびしゃびしゃにしながらこのリビングルームまでやってきて、暗い窓の外をボーっと見てやがる。ソファーに座った俺なんか無視して。指先からぽたぽた落ちる雫や足から伝う水滴で、テーブル下に敷かれた毛足の長いラグが女の足元からじんわりと濡れ始めた。
俺は、どうでもいい、これで10回目になろうかと言うほどに見飽きた、モノクロームのフランス映画を見ていた。それは治安の悪い地区に生まれた3人の幼馴染の話しで、結局3人のうち2人は死んでしまう。1人は警官に射殺され、1人は人違いからギャングにリンチされて。俺は生き残った1人が、3人の中で一番めそめそして悲観的だったから生き残ったんだ、といつもこの映画を見終わった後に思う。
女の股の内側の非常に白い肌の上をドロドロとした血が、恥部から一筋伝っている。それに気がついたとき、俺にはまるで女がそれを見せ付けているように思えてきて、俺は
「ごめん。ごめんよ。本当にごめん。心からすまないと思っているよ。でもどうしていいのかが、本当にわからないんだ。僕自身が何をしたいかとか、何をすべきかとかが、本当に、わからない。君が何を思っているか、僕にどうして欲しいのかも、わからない。どうして欲しいのか言ってくれないか。今君は僕に何をして欲しい?
もし、その濡れた体を拭って欲しいのなら、清潔な白いふかふかしたタオルがあるから、拭ってあげるよ。
寒いんなら抱きしめてあげる。すぐにあったかくなるように体を擦ってあげよう。
ここが気に入らないんだったらすぐに越そう。もっともっと高いところに。もっともっと広いところに。もっともっと綺麗なところに。
素敵な服が着たいかい?大丈夫だよ。ここのクローゼットにかけてあるのは、一着一着丁寧に、君に合わせて縫われたものだよ。デザインが気に食わないんだったら、いつでもデザイナーとお針子さんを呼べるようになっているから、相談すると良い。
おなかは空いていない?たくさんのフルーツを用意したよ。たくさんのお菓子も用意した。食べたからって体重なんて気にしなくたっていい。そんなちんけな悩み、飲むだけで解決する錠剤をちゃあんと用意してあるから、存分に食べるといい。
飲み物も強烈なアルコールから、一流の中国茶、鉱水まで何でもあるよ。それこそ浴びるほど。
ああ、何か言っておくれ。もうこんなことはきついよ。やめられるんならやめたいんだ。でも僕は君のことが好きで、こんなにも愛している。それが伝えきれないほどに。」
と、しゃくり上げながらしゃべりきった。俺が両手で顔を覆いうなだれてしばらく、指の間から女の肌の上の血の一筋がつつーと足下まで来て、真っ白なラグを赤くするのが見えた。
彼と彼女はいつまでたってもひとつになれない。