Lesson#217;Glad to be unhappy (Rodgers-Hart)

 マンション世代の恐怖というのは存在するだろうか?生家が一軒家ではなくマンションであった私は、それを如実に感じている。24歳である今ですら。疎外と連帯の狭間が家族というミニマルで、プリミティブで、ドグマティックなコミュニティーに存在するという事実に慄然としてしまう。
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―ところで、あの羽虫が老人のひざの上を這って飛び去るシーンというのは、彼の元を去る孫娘をあらわしているのでしょうか?
A.「確かに今回新たに挿入したあのシーンは翌日におとずれる孫娘の旅立ち―むしろ出奔といっても言い―を念頭に置いたシーンだね。彼女の祖父はその瞬間までそれを知らないわけだけれど結果としてはものすごく納得している。なぜなら逡巡する彼女を見ているから無意識的予感はあったということで。飛ばなければ虫の羽は飾りでしかないわけで。」
―孫娘が実は旅の途中で生まれ育った町にやってくる。それは本人も知らない出生地なわけですけれど、そこで死と再生とも取れる劇的な体験をします。ここでの描写がこの作品の中では珍しく若干ファンタジックなものとなっていますが・・・
A.「万能感と不全感の相克というか。思春期的なもので、多くの僕みたいな世代が引きずりながらまだ解決に至っていない問題を、がばっと提示してね、何か提起が出来ればって思いまして。まぁ少女を主人公にする。かつそれが何か大きなもの、今回は受け入れがたい現実なんですけど、と対峙するっているのはヘンリー・ダーガー宮崎駿って言うちょっと神経症的とも取れるそのスタイルへの強迫性への僕なりの近接と回答を示したかったんですよね。」
―孫娘が祖父の死にぎりぎりで立ち会えない、その事実を知って目の前まで来ていたのに引き返してしまう。ここでの彼女のある意味での成長を、多くの批評家は看過しています。
A.「あそこは、彼女のキャラクターを考える上で、彼女の人生を思い返してもらえばわかるのだけれど、ギリギリでうまくいく/うまくいかないと言う運とかそういったものが大きな役割を担っている事実に対しどうアダプトするのか?といったことに対する考え方の転換点ではあるんだ。成長とは言わないまでも。」
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彼の寝室の天井にはピンクの1m×1mの紙が張られている。これは目覚めを良くするためらしい(しかし寝入りには若干の障害となる)。
彼のリビングルームのTVのバックにはグリーンの2m×2mの紙が張られている。これは目の疲れを取るためらしい(なんとなく気になってTVが見れなくなるが無駄に見続けることがなくなるのでちょうど良い)。
彼のバスルームには天井と壁の境目がそのちょうど中心線になるよう1m×2mのブルーの紙(耐水性のフィルム状のもの)が張られている。これはより精神を落ち着けるためらしい(これにはほかに何の有用性も無い)。
彼のキッチンにはガスレンジの周りにオレンジの紙が張られている。これはより優しい気持ちになるためらしい(油汚れがひどくなると交換される)。