Lesson#216;抱きしめて欲しい。と思っているのだ。

 巨大なショッピングモールのど真ん中で、ベンチに座りソフトクリームを食べる少年の目の焦点は宙空の一点である。そのぼんやりとした表情には特にこれといった感情を読み取ることはできない。おとなしそうにしている。隣の大人は父親だろうか(後にこの大人が父親となるのは事実であるが、この時点では法律上この大人を父親と呼ぶことが適切ではない)?
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「たっくんはさぁ、何食いたい?」
「たっくんって。そんなあだ名なの、きみ。」
「やっぱり変ですかね、この年でたっくんは。」
「良いじゃん。かわいくて。和むんだよね、部屋がさぁ、殺伐とした。」
「そんなに殺伐としてんの?あんたんとこ」
「いやぁ〜もうこれがね、ひどいよ、やっぱり。なぁ?たっくん。」
「そうなんですかぁ?僕、よくわかんないんですけど。」
「なんかめんどくさいよね、ああいうのって。どこ行っても付いて回るんだろうけどさぁ。」
「んで、たっくんは何食いたいの?もうすぐ着くぜ。」
「え〜特には、ないですね。お二人で決めてくださいよ。」
「だって、何にする?」
「って、お前は食いたいもの無いんカイ。」
「う〜、特には無い。」
「なんだこの優柔不断な男供は。」
「スイマセン。」
「スイマセン。」
「じゃあカツだ、カツ。カツ食うぞ。」
「うわ。なんとも女性らしからぬチョイス、言い方。」
「いちいちうるせぇなぁ。何にも決められんくせに。」
「た、たっくんも、大丈夫。カツで。」
「あ、はい。OKです。」
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 結局偏食の癖はだけは直らなくって、僕は毎日サンドウィッチとウォッカトニックの夕飯だ。
サンドウィッチは駅のパン屋の、売れ残って値引きされたものを買うから特にこれといって中身にこだわりがあるわけじゃないんだ。時には全部売れてしまって、コンビニで買うこともあるけど。
ウォッカにも特にこだわりはないんだけど、近くの酒屋で買っているから銘柄はいつも決まっているね。高くも安くもない銘柄にしてる。