Lesson#210;ジャズの引込み線。

 恋とはやはり悲喜こもごも、であります。悲しみか喜びかどちらの占める割合が多いのだろうか。きっとそれはフィフティ/フィフティ、結果的にはプラマイゼロとなるのでしょう。恋が人生・人格に及ぼす影響について考えるにつけ、それが学歴や収入なんかよりも絶大であることは言うまでもないことと思われます。なかなか寝付けない午前二時、今までに恋した異性をふぅとため息混じりに思い出すとき、そこには打算、思惑、目論見、恣意、しがらみ…その他およそ考えられる人間ゆえの、なんとなく面倒臭い部分は捨て置かれ、本当に恋というものに占領される心というものがあらわにされます。
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 こうして君の肢体を思いながら自慰にふける僕を、どう思うだろうか?恋に身を燃やすとはこういったことなのではないだろうか?かといって真摯に自身の行為を受け止めるわけにはいかない。この心が二つに引き裂かれる感覚も恋ゆえだろう。恋、恋、恋と都合よく自分の感情をきれいな言葉で片付け、世間に整った自分を見せようなどとは卑怯千万ではある。が、しかしそうでもなければ明日、君に会わす顔がないのだ。

 「おはようございます。」
礼儀正しく僕に挨拶をする君。
「ああ、おはよう。」
どんなに思っていても気の抜けた挨拶しかできない僕。
女友達のもとへ駆けていく君の後姿を見ながら僕は昨夜の快楽を思い出す。しかし君はそれを知らない。君とは永遠に共有できない快楽が、毎晩のように僕の体を通り過ぎていき、その延べ数は二桁では足りない。ヒロシマナガサキのことなんかを忘れて。

僕は授業中、教室での君の姿をちらちらと視界の端で捕らえることに必死で、集中なんかしていられない。

ああ、その潤んだ唇で…、そのペンを握る手で…。

くそう、なぜ隣のそんな奴と親しそうに話すんだ。そいつはぺらぺらと軽い男じゃないか。君には似合わないよ。
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 本当に気味が悪いったりゃありゃしない。なれなれしくって。いつもチラッと私のこと見てるのよね。なんなのさ。絶対、いやらしいことを考えてる、絶対。どうしてあたしなのよ。あんな年食ったやつなんて、いやよ、いやいや。せいぜい35までがいっぱいいっぱいよ。あんたみたいに60でもOKなんて、やっぱり異常よ。絶対あれはMね。えっ?まぁそりゃ確かにあたしはSだけど。