Lesson#209;ハマグリに化かされた男の顛末。

 本当に、友情って言うのは難しいな。彼女たちは、まぁ所謂“堅い絆”で結ばれていたはずなのだけど、結果的にはあんなふこうなことになっちゃって。いやー、あんな友情ばっかりなら生まれ変わるときはまた男が良いね、気楽だろう。
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 あの日はフェーン現象が起こっていたの。ちょっと窓を開けただけでカーテンがばたばた音を立てて。部屋の中でもスカートを抑えなきゃいけなかったくらい。ちょうど夏が始まったくらいの時期で、お日様の光も強くって、別に明かりをつけなくっても窓のそばなんかは明るかったわ。今思い出してみると、なんとなく空気はふんわりしていたような気がする。暑かったのは暑かったけど、フェーン現象だったから、風はあったし空気は乾いていたし別に不快な感じはしなかったの。それにフェーンなんて滅多にあるもんじゃないから、ちょっと日ごろとは違う感じがしたのね、きっと。
 そんな日に、シズカはユートと話していたわ。ユートは机に突っ伏して半身を起こして窓から外を見ながら、あいまいな相槌を返すだけだった。そのとき空はものすごく青かった、雲の白とのコントラストで真っ青な、快晴以上に。シズカも別段意味のある問いかけを彼に投げかけているわけでもなくって、彼女は自分のつめをいじったり、ユートと同じように遠くの空を見たりしながら、頬杖を突いて。たとえば最近出た新しいお菓子や、離婚した芸能人夫婦、ユウカと先輩の恋愛のこれまで、なんか。
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「今回の刺傷事件について、被害者、加害者両名に近しい人物につての聴取からは、この二人の間に別段問題がなかったようですね。」
「ふぅむ。では君は今回のこの事件、どう見る?」
「難しいですね。今現在彼女とのセッションから直接的な原因は得られていませんし。これ以上突っ込むにはもう少し時間をかけるのが得策のように感じますね、こういう案件は。あのお医者先生しだいですかね、こっちの線は。」
「それじゃあ、学外の人間関係は?どこまでわかってきた?」
「そこのところもまだ、えー、彼女の部屋なんかも探してみたんですが手がかりになりそうなものがない上に、携帯電話、手帳なんかの類もどこにあるのかわかりませんから。私見ですが、彼女の部屋っていうのが、なんて言うんですかね、こう生活感って言うのがなくて、ちょっと不気味な感じでしたね。そういう意味では『ああ、やりそうだな』って言うのは、ありましたね。」
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 面倒に巻き込まれた、なんて思っちゃいないさ。仕方ない、起こるものは起こるべきして起こるもんだ。幸いたいした怪我じゃない。入院ってのも大げさなほどのもんだろ、詳しくはよくわからないけど、感覚的には。あの時はボケーっとしすぎていたんだな。もう少し回りに気を配ってりゃこんなことにならなかったろう。