Lesson#167;薄暗い霧雨の中、農地を貫く一本道を音もなく走るバス(近

 約二年ぶりの首都東京です。明日出発します。今回は友人宅に泊まるので出費は航空券代のみ。とは言っても、泊まる家の家主は貧乏学生です。とりあえず僕の滞在中、彼の分の食費も僕が負担する事になるでしょう。飲み屋にて、気にするな何でも頼め頼め。と、東京には記憶する限り長期滞在などしたことの無いくせに、気風の良い江戸っ子にでもなったつもりで。
 さて東京へ行けば久方ぶりにある女性に会えるかもしれない、と言う期待に本来の上京の目的そっちのけで胸躍らせている訳ですが、なんともはや恋はこの様に狂おしい。彼女は素晴らしい女性で、見目麗しくずっと見ていたい、その眼球の虹彩など非常に美しい、少し伏目がちになって虹彩が半月状になって、さらにそれが光に透かされていたりすると、そしてその容姿に見合った、しっかりしていて明るくやさしい、快闊な性格。もうこの際プロポーズでもしてしまおうかしらん、などと思ってしまうのですね、久しぶりに会えるとなると。
 しかし『面接に受かるかなんてもうこの際どうでも良いや、下らない。俺は社会の犬になんかなら無い、ギター一本で生きていくんだ、べらんめぇ!』などと東京には一週間もいたことが無いのに何故か江戸っ子口調で吐き捨ているわけにも行かない訳で。こっちはこっち、そっちはそっちできちんと身を入れなければいけません。何よりも僕自身のこれからのことであること以上に、きっと僕の周りの人々に大きく関わってくる事由になるでしょうから。
 ですので粛々と面接の準備をしているのですがこれがなんともはや、体質改善ならぬ精神改善、性格改善のようなもので『(無菌室で泣いている自身の娘の背中をさすりながら)○○ちゃん、辛いけど頑張ろうね。このお薬できっと良くなるからね。』など変わってあげたいのだけれどできない、それがこの母親にとって最も辛いのだ。と言った情況に於ける闘病中の投薬による体質改善・治療と言ったものの1千兆分の1ほどの辛さがあります。僕もそういった闘病を軽く体験したのですが、治療後世界を見る目が一変する乃至良くも悪くももう元には戻れない感覚があり、結果ちょっと寂しいのであります。
 僕が今回の面接において、自身の精神構造の改変に成功しものすごいパフォーマンス(バック・トゥー・ザ・フューチャーにおけるマイケル・ジェイフォックスのギタープレイのような)発揮でき、この難関を突破することに成功したならば、やはりちょっと寂しくなるんでしょう。
 あ〜サナエに会ってこの不安をぶちまけてしまいたい。