Lesson#70;人生の大半は水底に。

金曜の夜、と言うのは多くの恋人達にとって、一人で居るには余りにも寂しすぎる。彼女・彼等はそんなときに何処で何をしているのか。深夜のクラブ、大音量のゲイによってミックスされる大勢のクラウドの中で時々相手を見ては、その腰のラインが最高だよ、と思いながら踊り明かすのか。家の白い革張りのソファで、彼女にはソフトなカクテルを、自分にはシーバスのロックをつくり、僕にとっては君の方が美しい、と思い相手の艶やかな髪を弄びながら『麗しのサブリナ』のDVDを見ているのか。コース料理の後、ホテル最上階のバーラウンジでアフロアメリカンの吹くサックスをBGMに、スィートのキーを上着のポケットに忍ばせつつ、都会の夜景の映りこむ美しい女性の瞳に見入る愉悦に浸っているのか。
と、ここまでは結構アッパーなクラスの人々について記述してきましたが、そんなもの一握りの人間の特権ですよね。大抵はコンビニで発泡酒とスナック菓子を―まだ食事を済ませていない人達は弁当も合わせて―買い込んで、小脇に抱えたレンタルビデオ店のブルーの貸し出し袋の中身、である三文ハリウッドアクション(もしくはラブストーリー。三文のハリウッド、ではなく、ハリウッドだから三文、と言う代物。同じ内容でもインドで撮られていればそれはB級になること必至、な)映画を二人で見ながら、最後の方は良くわかんなかった(生殖欲求と行為によって)と言う就寝までの二、三時間を過ごしているのでしょうか。
僕はあまりスィートな時間と言うものに恵まれておりませんので、ここに書いたものが現実から大きく乖離しているのではないのかと恐る恐るなのですけど、やはり第一段落で描写したような世界に憧れてしまいます。こんな世界を垣間見るために、次のバイトはDJか外資系CDショップ店員かバーテンか、と画策しておりますが如何せんどれをとっても僕には才能も経験もないことなので仕方が無く金曜の夜のコンビニで働き、そんな現実についに嫌気がさして来月でやめることにしました。でも来週からシフトが土曜午前になる予定で、落とし前としては『土曜の朝目覚めてみると、何か盛り上がっちゃってもう一発やっちゃった。午後からは街に出て買い物とか映画見たりとかしようと思うのだけれど小腹が空いたな。奴がシャワーを浴びている間にコンビニに行って何か買ってこよう。』と言うようなラフな格好で来店される方々の接客をしなければいけなくなるのだ、と思うとまた一筋の涙が頬を伝うのでした。
僕はニートや引きこもり、鬱や不安の治癒には恋が効くと思いますよ。でも、僕が本論考第二段落(と第三段落での後日談、ならぬ翌朝談)で取り上げたような種類のものではなく初段で言及したものです。セックスよりダンス、ヘテロではなくゲイ、ハリウッドでは無くヨーロッパ、インスタントより過剰に手の込んだもの、一見これらの多くは倒錯的、アンチヘルシィーな感覚、影と言うものの様に思われます、が極端にフツーでヘルシィーなものより悩める人々への親和性が高いと思うし、また倒錯的な状況においてもそこに宿る本質的なヘルシィーはキチンと病を治す効能があるのです。料理もお酒も映画も音楽も。