Lesson#247;近代的な熱帯の夜(宵の口と夜明け前)。

雨にぬれる午前四時の町並みがどうしてこうも美しいのだろうか。
地上七階の窓から見るそれは、見上げるでもなく、見下ろすでもなく同じ目線で見渡せる。
以前にこういった風景を見たのは一年くらい前だったろうか。
高架を走る電車の中からこれから闇の深まっていく、雨降る街を眺めた。
近くの建物は速く、そして遠くの建物はゆっくりと横に流れ去っていく。

こういうときはいつも同じで心が空っぽになってとても落ち着く。
いつも何かがぎゅうぎゅうに詰まっている僕の心は、窮屈で騒がしく暑苦しい。
空気は澱んでいて、そのせいで息が詰まりそうだ。

雨の降った後の空気は澄んでいるように見える。
太陽の光も、幾分鋭い気がする。
そんな雨雲の銀縁の向こうの風景に魅かれているのだろうか。
メランコリックをきめ込んだ僕は。

ガラス越しに見る雨に打たれる世界は、ガラスのこちら側とは違う。
傘やレインコート無しには濡れてしまう。
これが母なる海を離れた業なのだろうか。
僕らは必ずしも、水には強いわけではないのだ。

ぬくぬくとした安心感に満ちた室内や、車内。
ハードレイン・ゴナ・フォール、と言うには慈愛に満ちた天の恵み。

子供の頃の嵐の夜のそわそわした感じはまだ見ぬ不安への憧れだろうか。